Abstract
水溶液中に共存するFe(II)及びFe(III)の簡便な分別吸光光度定量法を検討した.Fe(III)の発色試薬として知られるタイロンは酢酸塩緩衝液中でFe(II)の酸化に対して促進作用を示したが,酸化速度はpHの低下と共に小さくなり,反応速度データのプログラム解析操作を必要としない簡易定量が可能になった.タイロンを含む酢酸塩緩衝液(pH 4.0)に試料溶液を添加した後,素早く混合して680nm(等吸収点)の吸光度(A0)を測定する.発色溶液を一昼夜放置した後,再び吸光度(Ae)を測定する.A0及びAeはそれぞれFe(III)及びFe(II,III)濃度に相当し,あらかじめ作成したFe(III)-タイロン錯体の検量線からFe(II)及びFe(III)濃度を算出した.680 nmにおけるFe(III)錯体のモル吸光係数は2.01×103 l mol-1cm-1であり,検量線の直線性は1~30ppmの範囲で成立した.計算機プログラム法(pH 5.6)に比べて分析感度は低下したが,試料溶液のpHに左右されない同時定量が可能であった.本法を深層地下水試料へ適用し,ppm量の鉄を含む試料水の保存条件によるFe(II,III)化学種の濃度変化を考察した.

This publication has 0 references indexed in Scilit: