Abstract
アセチルコリン(ACh)は最も古くから知られている神経伝達物質である.しかしながら,高感度かつ直接的な測定技術の開発により,様々な非神経性組織におけるAChの存在が判明し,局所作用性の細胞機能調節物質としての役割が徐々に明らかになってきた.リンパ球には,ACh,ACh合成酵素コリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT),高親和性コリントランスポーター,ムスカリン性ACh受容体(mAChR)およびニコチン性ACh受容体(nAChR),アセチルコリンエステラーゼなど,神経系と同様にコリン作動系として不可欠な構成要素がすべて備わっている.T細胞受容体/CD3複合体を介するT細胞の活性化,T細胞と抗原提示細胞との接触,あるいはT細胞におけるアデニル酸シクラーゼ経路の活性化は,ChATおよびM5 mAChR遺伝子発現の増強をもたらし,T細胞のコリン作動系を活性化させる.ACh作用薬によるmAChR刺激は,主にM3およびM5 mAChRを介して,TおよびB細胞において細胞内Ca2+シグナルおよび転写調節因子c-fos遺伝子発現の増強を起こす.さらに,一酸化窒素産生の増大およびインターロイキン-2を介するシグナル伝達機構を調節する.TおよびB細胞において,nAChR刺激は,少なくとも一部はα7 nAChRサブユニットを介して一過性の細胞内Ca2+シグナルを起こす.T細胞を長期ニコチン曝露すると,nAChRサブユニット遺伝子発現が低下し,結果として細胞内Ca2+シグナルが減弱されT細胞機能が抑制される.すなわち,喫煙による免疫活性の低下にこれらのメカニズムが関与している可能性が考えられる.さらに,リンパ球コリン作動系活性の異常が,2つの免疫異常動物モデルで確認された.以上のように,リンパ球における非神経性コリン作動系により,少なくとも一部の免疫機能が調節されていることが明らかとなった.