Abstract
地球内部からの水の供給速度と,大気中における水蒸気の光分解による水の逃失速度の差に等しい一定の速度で,海洋水が蓄積されたという仮定のもとに,原始地球の水の重水素濃度を推定した。その結果,原始地球の水の重水素濃度は,現在の海洋水のそれよりも3~4%低いことが示された。 海洋水中の重水素濃度に関しては,蒸発のさかんな海域の海水,あるいは融氷水の混入している海水をのぞいて,重水素濃度と深さおよび塩分との間には特に相関関係はみい出されなかった。 降水中の重水素濃度に関しては,水蒸気-液体および水蒸気-氷の二つの系に対する同位体分別作用を論じ,雨水中の重水素濃度に,水蒸気-氷の系を果たす役割りが重要であることを指摘した。さらに,水蒸気-氷の系では,重水素の分別係数が約-5℃ で極大(水蒸気-液体の系では0℃)になり,HDOの氷の蒸気ぼは,-25℃以下ではH2Oの氷の蒸気圧よりも高くなることをのべた。 地球上における水の移動速度をふくめた重水素の収支表を作製した。海洋における降雨中の重水素濃度(-6.9%)は陸地の降雨中のそれ(-8.9%)より2%だけ高く,また大陸の降雨の55%は,海洋起源の水蒸気に由来することが結論された。

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